光を閉じ込める“霧のガラス” 藤本 咲の手仕事と現在地
「光が強いほど、形ははっきりする」—ガラスの常識を、あえて揺らす作家がいる。藤本咲(さく)は、粉状のガラスを焼き締めるパート・ド・ヴェールの技法で、輪郭がやわらかく滲むような作品を生み出してきた。色は鮮やかすぎず、表面は落ち着いたマット感。器や小物は、日常の記憶や風景を“思い出の温度”で残す。
藤本咲は1988年に東京で生まれ、武蔵野美術大学と富山ガラス造形研究所で学んだガラス作家。硝子企画舎で制作・活動し、パート・ド・ヴェール技法で粉状ガラスを焼き上げる。柔らかな色合いと落ち着く質感が特徴で、オンライン販売や兵庫県三木市の実店舗「ころは」で作品に出会える。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | 藤本 咲(ふじもと さく) |
| 生年・出身 | 1988年/東京出身 |
| 学び | 武蔵野美術大学、富山ガラス造形研究所 |
| 制作・活動 | 硝子企画舎で制作 |
| 主技法 | パート・ド・ヴェール(粉状ガラスの焼成) |
| 代表アイテム | オーバルリム皿、オーバル皿など(約1万円~1万5千円) |
| 販売 | iichi/Creema/メルカリ等+兵庫県三木市「ころは」 |
| 展示予定 | 2026年6月「夏涼みの硝子展」、2026年7月の双子展など |
藤本 咲とは——“霧のように滲む”ガラスを生む人
藤本咲の作品が他のガラスと一線を画すのは、透明感の“強さ”ではなく、光の“密度”の扱いだ。パート・ド・ヴェールは、粉状のガラスを型に流し、焼成によって固めていく手法。その結果、薄い部分ほど光が柔らかく、厚みが増えるにつれて色が沈む。輪郭が完全に立つというより、“息をするように”見える。
彼女はこの性質を、器や小物に落とし込む。食卓の中心に置いても主張しすぎないのに、手に取ると質感が目を引く。マットな表面は指先の感覚と相性がよく、金彩のようなアクセントが入ると、昼の光と夜の照明で表情が変わる。
1988年東京生まれ。武蔵野美大と富山ガラス造形研究所が土台
藤本咲の技術の背景には、学びの順序がある。まず武蔵野美術大学で美術の基礎を身につけ、次に富山ガラス造形研究所でガラスの造形に踏み込んだ。ガラスは素材の癖が強い。加熱、冷却、焼成時間のわずかな差が、色味や透明度、表面の質感に反映される。つまり“勘”だけでは成立しにくい領域だ。
富山ガラス造形研究所は、ガラスを単なる工芸ではなく造形として扱う場として知られる。藤本咲はそこで、材料の挙動を理解しながら、自分の表現に必要な条件を組み立てていった。結果として、パート・ド・ヴェールの粉状ガラスという扱いに、作風の核が宿っている。
学んだ後は、硝子企画舎で制作・活動を続ける。制作拠点があることは、作品の安定だけでなく、展示や販売の動きとも直結する。作家は“作る人”で終わらない。流通の現実に合わせて、サイズ感や価格帯、同一シリーズの組み立てを考える必要があるからだ。
パート・ド・ヴェール——粉のガラスが、柔らかな色を決める
藤本咲が主に使う技法がパート・ド・ヴェールだ。ここで重要なのは「粉を固める」だけではない点にある。粉の粒度、型の状態、焼成温度と時間、そして冷却の仕方が、色の濃淡とマット感を左右する。表面がつるりとしないのは、光が反射するよりも散乱する割合が増えるからだ。
そのため、同じ色でも見え方が変わる。朝の自然光で見ると“薄い霞”のように広がり、夜の照明では“沈んだ色”として立ち上がってくる。藤本咲の作品が、日常の光環境に寄り添う理由はここにある。
器が主役、でも小物が世界を締める
藤本咲は、器だけで完結させない。小物を合わせることで、作品の空気が一段階濃くなる。たとえば同系色の小さなアイテムが食卓の隅に置かれると、皿の色が単なる“背景”から“物語の糸”になる。食器は毎日の繰り返しの中で使われるからこそ、視覚のリズムが重要になる。藤本咲は、そのリズムをガラスの濁り方で作っている。
代表作「オーバルリム皿」「オーバル皿 tone」——色と形の反復
藤本咲の代表的なアイテムとして挙げられるのが「オーバルリム皿」。ホワイト/金彩、ブラウン、クリアの系統があり、価格帯は約1万円~1万5千円だ。オーバルという形は、丸皿よりも“身体の動き”を邪魔しにくい。食卓では、手が皿を持ち上げる動作が入る。そのとき楕円の余白が指の収まりに影響する。さらにリム(縁)に表情があると、料理を盛り付けた際の視線の入口が一つ増える。
もう一つが「オーバル皿(tone)」。toneは“音のような揺れ”を連想させる言葉だが、視覚のトーン、つまり光の層で調子を合わせていく設計だと考えられる。トーンが違う器が複数並ぶと、同じテーブルでも空気が切り替わる。藤本咲の作品は、シリーズで見せることで魅力が増すタイプだ。
金彩は飾りではなく“季節の差し色”
ホワイト/金彩のオーバルリム皿は、白さだけでは出せない“時間差”を作る。金彩が日光で見えるのと、夜の光で見えるのでは、コントラストが変わる。ここで大事なのは、金が主張しすぎないことだ。藤本咲の表面はマットで散乱する。だから金彩が入っても、ギラつきではなく温度の差として作用する。
販売チャネル——オンラインと実店舗「ころは」が結ぶ距離
藤本咲の作品に出会う道は複数ある。オンラインではiichi、Creema、メルカリ等で販売し、購入者は自宅で作品の写真と向き合いながら選べる。ガラスは“見え方の揺らぎ”があるため、写真だけで完全に判断するのは難しい。だからこそ、購入後の体験(実物の光の入り方)が重要になる。
もう一つの大きな手がかりが、兵庫県三木市の古民家カフェ「ころは」だ。実店舗では、作品が空間の中で成立するかどうかを確認できる。古民家のような落ち着いた室内環境だと、ガラスのマット感がより自然に見える。背景が騒がないほど、藤本咲の“霞”が際立つ。
価格帯とサイズ感が、日常使用を後押しする
約1万円~1万5千円という価格帯は、贈り物にも、自分の生活の質を上げたい人にも届くレンジだ。器は高価でも、普段使いできないと関係が続かない。藤本咲の器は“毎日置いても馴染む”方向に設計されているから、実用のハードルが低い。
展示予定(2026年)——「夏涼みの硝子展」から、双子展へ
藤本咲の今後の展示計画として、2026年6月に「夏涼みの硝子展」が予定されている。夏をテーマにした展示は、ガラス作家にとって“温度の演出”が問われる。透明度が高いガラスは暑さを強調する場合もあるが、パート・ド・ヴェールのマット感は逆に、涼感を静かに作れる。光が冷たく刺さらないぶん、空間が落ち着く。
また、2026年7月には双子展などの企画も予定されている。双子展という言葉が示すのは、同じ作家の別作品だけでなく、作家同士の“対話”の可能性だ。色や形の共通点と差分を並べたときに、藤本咲の作品が持つ“滲み”が、比較の軸になる。
こうした展示は、作品を写真から解放する。ガラスは空間で意味が変わる。照明の色温度、壁の色、来場者の動線がすべて見え方を変える。展示の機会が増えるほど、藤本咲の技法の説得力が増していく。
購入者が知っておきたい——“見え方”は環境で変わる
藤本咲の作品を選ぶ際に、購入者が意識しておくと安心なのは「同じ皿でも、光の違いで表情が変わる」ことだ。パート・ド・ヴェールは粉の焼成で表面の散乱が増えやすい。そのため、自然光、昼白色、電球色で、色の見え方が変わる。
たとえばクリア系でも、ただの透明ではない。厚みの差が薄い部分と濃い部分に出ることで、透明が“空気の薄さ”として感じられる。ブラウンやホワイトも同様で、白が真っ白であるより、温度のある白として見えてくる。
シリーズを揃えるほど、作家の意図が見える
藤本咲の良さは、単品で終わらない。オーバルリム皿のホワイト/金彩、ブラウン、クリアを同時期に手に入れると、色が同じ方向に向かっていることが分かる。toneの皿は、その調子を“締める役”になりやすい。結果として、食卓が単なる器の並びではなく、色の設計図になる。
藤本 咲の“霧のガラス”が示す、ものづくりの時間
藤本咲の仕事は、派手さで勝負していない。むしろ、素材の癖と向き合うことで生まれる微差を積み重ねている。粉状ガラスが焼成されるまでの工程は、見えないところで条件が揃って初めて成立する。だからこそ、出来上がった作品は静かに強い。
その強さは、日常の中で現れる。何気ない盛り付けが、器のマット感と色の沈み方によって“記憶のように”残る。光が変われば表情が変わる。だから同じ皿でも、使うたびに違う時間を映す。藤本咲が作るのは、物だけではない。毎日の中に差し込む、わずかな静けさの設計だ。
Frequently Asked Questions
- 藤本 咲はどんな技法で作品を作っていますか?
主にパート・ド・ヴェール技法を用い、粉状ガラスを焼き上げて形にしています。 - 藤本 咲の出身地や生年は?
1988年生まれで東京出身